「SNS疲れに効くツボはありますか」「もちろん」微笑みを浮かべて整体師は答えた。「スマホの電源ボタンを1秒以上長押しすればよろしい」「なるほど」わたしは実行する気もないが納得しておいた。13月の暑い夏のことだったコンビニではオムソバの卵の下に具が一切入って無かったとクレームを入れに来た客の対応で警察まで出動する騒ぎだった。「大切なものは目に見えないとおっしゃる方々は、一度眼科を訪れたらよろしい」「この近くに良いお医者さんはいらっしゃいますか?」わたしが問いかけるより先に整体師は答えた「目をつぶればよろしい」14月の暑い夏のことだった蝉は夏の断末魔のようで祝祭の歓声ようでもあり結局わたしにとってはただの騒音でしかなかった空はもう何億年も前から青かったけれどわたしの白いシャツに跳ねたナポリタンの染みだって不変性の勝負なら負けてないけれど整体師は続ける「あなたは人の話を聞かないところがある」「やはりわかりますか」「それは良いことでもあり悪いことでもある。人の話を聞かない人は自分の内側の声に耳を傾けることができる」「でもそれは悪魔の声かもしれませんよね」16月の暑い夏のことだったビルの屋上でギターの弾き語りをする男を烏がつつく高いところからデカイ声を出せばみんなに届くとでも思っているのかこの街の住人は食事をするときも恋人と愛し合うときも耳にイヤフォンもしくはヘッドフォンをしているのに「悪魔のせいにしてはいけない。どんな声であれ、あなたの内側から聞こえてきた声はあなた自身の声なのです」「それが忘れたくても忘れられない過去の、誰かに傷のように自分の内側に残された言葉だとしても?」「そうです」17月の暑い夏のことだったオムソバクレーマーは棒アイスの当たりくじで懐柔されてしまった蝉はフィールドレコーディングが趣味の老人がやって来た途端に一斉に鳴き止んだ弾き語りの男は喉よりも先に頭髪が枯れてしまったこの街に静けさがやってきた「あなたの声にしたくなければ、消してしまえばよろしい」「どうすれば?」「簡単なことですよ」「死ぬまで喋り続けていればいい。誰かの声なんて聞く余地も思い出す余地もないくらい死ぬまで喋り続け歌い続けていればいい。それだけの話しなんです」18月の暑い夏のことだった。わたしは禅問答が大嫌いで回りくどい哲学談義も大嫌いだった。だからこの男も嫌いだ。そしてわたしはわたし自身も大嫌いで

 

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